とうやく394号(2012年5月号)学術欄

HOME > 学術欄

薬事法改正に対応した薬剤師育成プログラム:
セルフメディケーションを実現できる薬剤師育成プログラムの
開発の活動を行って

(文部科学省「大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム」)

東京薬科大学薬学部 薬学教育推進センター
教授 加藤哲太


 平成21年6月1日の薬事法改正により、OTC医薬品の販売方法が大きく変わり、OTC医薬品を取り巻く環境は大きく変化しました。 そうした中で、今後薬剤師が最も能力を発揮できる場の一つは、対面での情報提供・相談応需だと思われます。 薬効、用法・用量、副作用、その他の注意事項、これらの医療情報を正しく分かりやすく伝えることは薬剤師にとって必須の業務であることはもちろんですが、OTC医薬品を販売するためには、さらに医薬品や疾患に対する幅広い知識が必要とされます。 対話や患者の背景などから、疾患、病状を推定し、OTC医薬品の選択あるいは受診勧奨などの指導する能力を常にみがいておかなければなりません。
 本学では、平成21年度に文部科学省「大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム」で「薬事法改正に対応した薬剤師育成プログラム」(セルフメディケーションを実現できる薬剤師育成プログラムの開発)が採択され、OTC医薬品の販売において社会のニーズに対応できる能力を持った学生の育成とそれを評価するシステムの確立を目標に活動を進めてきました。

1.ツールの構築
(1)【e-ラーニング「東京薬科大学 OTC医薬品講座」】
 (株)ネットパイロティングに依頼し「東京薬科大学 OTC医薬品講座」を開設しました。 学生はIDとPWを取得し、ネット上で学習することができます。チェックテストも実施できます。
主な内容は、
1)OTC医薬品の選択と指導
 ・OTC医薬品カテゴリー&ブランドリスト
 ・OTC医薬品相談応需演習
2)第1類医薬品学習
 ・薬効群別第1類医薬品適正使用情報
 ・薬効群別相談応需・情報提供シミュレーション
 ・OTC医薬品相談応需スキルアップ
3)基礎学習
 ・OTC医薬品基礎講座
 ・改正薬事法基礎講座
(2)【薬剤師向け症例学習システム】
 (株)シーイー・フォックス と協働で薬剤師向け症例学習システムを開発しました。学生はIDとPWを取得し、ネット上で学習することができます。
 症例学習システムは、《1》症例を中心としたケース・スタディー《2》自由記述型問診による診断の決定《3》症例鑑別の妥当性の評価、からなります。
 提示された症例(たとえば頭痛)について、症状から、頭痛の種類の鑑別、または受診勧奨の必要性を判断します。 その結果については、問診の履歴を確認しながらのカウンセリング、結果の正誤、さらには判定のポイントと自己評価を順次行うことができます。

2.セルフメディケーション教育
「セルフメディケーションを実現できる薬剤師」には疾病や医薬品に関する知識に加え、判断力さらにはコミュニケーション能力の育成が不可欠です。 こうした能力を育成するために、「OTC薬の選択と指導」(1)(3年次)、(2)(4年次)で演習を行いました。

1)カリキュラムの構成
今回試みた「セルフメディケーション教育」行動目標として、《1》症状のメカニズムについて説明できる、《2》薬の作用メカニズムについて説明できる、《3》症状よりOTC医薬品の選択ができる、《4》添付文書に基づきOTC医薬品の服薬指導ができる、があげられます。これらの内容のうち《3》、《4》、《5》を3年次に取り上げ、《1》、《2》を中心に総合的な能力の育成とその評価を5年次で行いました。

2)OTC医薬品の選択と指導(1)
対象:3年次生
【概要】 OTC医薬品の選択と指導に必要な知識・技能を習得することを目標に、e-ラーニング「東京薬科大学 OTC医薬品講座」を導入した演習を行いました。
【進め方】 (1)授業スケジュール説明後、e-ラーニングのために、各自へのID、PWの貸与し、使用方法などについて解説します。講義はモチベーションを高めるため、「今こそ薬局薬剤師の出番 セルフメディケーション時代」と題して行う。その後、各自でe-ラーニングコンテンツの確認し、個人学習(医薬品の選択)に入る。
(2)個人学習、動画で情報提供の方法、注意事項を学ぶ。必要に応じて設問に答える。課題学習を行いレポート提出。
(3)個人でe-ラーニングを中心にして、添付文書を理解した後、グループ学習で添付文書の内容をまとめる。
(4)添付文書に基づく説明をグループ発表の形式で行う。ただし発表は資料を持たずに行う。最後にアンケート1 「テレビ番組(薬事法改正)をみて」、アンケート2 「本実習を終えて」を提出する。
【結果】こうした演習により、1)個人課題の学習前解答において講義等で学んだ内容の不確実さを認識した(アンケートより)のち、e-ラーニングでOTC薬販売に必要な内容を整理することができました。2)添付文書のグループ解説(資料なしでの発表)は、緊張感をもって調べた内容をプレゼンテーションでき、理解度を評価することができました。3)良好な理解度がチェックテストで確認できました。アンケート結果からも、「東京薬科大学 OTC医薬品講座」が有効なツールとなると考えます。

3)OTC医薬品の選択と指導(2)
対象:4年次生 医療衛生薬学科
【概要】「セルフメディケーションを実現できる薬剤師」には疾病や医薬品に関する知識に加え、判断力さらにはコミュニケーション能力の育成が不可欠であると考え、「OTC医薬品の選択と指導」をテーマに演習を行いました。基本的知識、技能および態度を修得しているだけでなく、問題発見・解決能力を兼備する薬剤師育成することを目標としています。「東京薬科大学 OTC医薬品講座」および「症例学習システム」を学習およびその評価に用いました。
【進め方】(1) 「東京薬科大学 OTC医薬品講座」および「症例学習システム」について、各自へのID、PWの貸与し解説する。
(2)講義:「セルフメディケーションでの薬剤師の役割」についてセルフメディケーションの意義と今後の薬剤師の役割を認識し、学習意欲を高め維持できるよう講義する。また、薬剤師業務を患者の視点から見直し、薬剤師の行動哲学として体系付ける思考力育成のために「改正薬事法」のDVD鑑賞後に討議する。
(3)問診力育成(主に自学習) まず「症例学習システム」を用いて、症例の解答を試みる。
(i)基礎学習 ~事例検討~: 育成プロセスには基本学習と応用学習の併用を組入れた事例問題の検討が有効と考えた。《1》~《4》は基礎学習、《5》~《10》は応用学習から構成されている。基礎学習を終了した時点で形成的評価を行い、学習者は自己の習得度を知り、学習活動を調整し的確な復習を行えるよう試みた。
(ii)応用学習 ~症状評価表作成~:疾病から誘発される症状をタイプ別に収集し、症状重篤度を点数化し、評価表作成を各自試み。その後グループで討論した。作成には慢性頭痛診療ガイドラインや尤度を基にした。
【事例検討】
「頭痛薬下さい」
パソコンを使用する仕事で,眼の疲れや肩凝りなどは慢性化している.
頭痛が起こると鎮痛薬を服用し我慢している.
半年くらい,吐き気を伴うようになった.
何か重い病気ではないか心配している.
疾患別学習コンテンツ-1
【問診時,考慮すべき項目】
《1》頭痛発症のメカニズムは何か
《2》頭痛の分類と特徴的な症状は何か
《3》頭痛薬(解熱鎮痛薬)の分類を挙げよ
《4》OTC 頭痛薬で注意すべき薬物相互作用は何か
《5》頭痛を伴う疾患は何があるか.その症状,鑑別法は何か
《6》主訴以外で,鑑別するための問診項目は何か
《7》本事例では,受診勧奨の必要性はあるか
《8》OTC薬適応の場合,推奨頭痛薬を挙げよ.選択理由は何か
《9》選択したOTC 薬で特に注意する副作用は何か
《10》OTC薬以外で生活習慣病の観点からアドバイスすることはあるか
(4)併用学習効果
基礎薬学・臨床薬学を横断した医療人としての問題解決能力を育成することであり、先に試行した同じ事例問題を「症例学習システム」を用いて再度検討し,今回の育成プロセスに対する効果を学習前と比較した。
(5)事例検討(グループ学習)、プレゼンテーション
内容の異なる4つの事例問題を各グループで検討し、発表時間は15分、質疑応答時間は5分のプレゼンテーションを行った。1つの事例問題は2グループでそれぞれ取組んだ。

【結果】演習により、問診力育成を目的とした、基礎学習に相当する疾患別学習コンテンツ《1》~《4》を終了した時点におけるチェックテストでは、学生は不明確な解答で本質的な学習が出来ていないことを自覚しました。症状評価表作成は診療ガイドラインを解読し作成した結果、頭痛症状に対し多数かつ複雑な診断基準が定められていることを理解し、各自の検索内容を各グループ内で発表し合うことで活発な討論が繰り広げられました。併用学習の効果は、「症例学習システム」、プレゼンテーションの内容およびアンケートから評価しました。併用学習後には受診勧奨適応結果またはOTC薬適応結果を導く問診と応答をそれぞれ考えるなど種々の症状を想定し、根拠ある対応をシミュレーションしており、併用学習を実施することで頭痛の分類を把握、さらに分類別に詳細な症状を理解できていると推察しました。

3.大学教育推進プログラムを終わるにあたって
 薬事法の改正、6年制薬学を終えた薬剤師の就業など、薬学を取り巻く環境は、大きく変わろうとしています。「薬事法改正に対応した薬剤師育成プログラム:セルフメディケーションを実現できる薬剤師育成プログラムの開発」で構築した2つのツールとこれらを利用した教育システムは、今後ますます必要となる高い知識と問題意識、そしてスキルを持った薬剤師育成に、貢献できるものと考えています。


ホームへ