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3. ラジオルミノグラフィーによる放射能の定量測定

3.4 低レベル放射能の検量線

 低レベル放射能の検量線,RLGとLSCの比較
 現在,RLGにおける検出限界は研究者個人の主観によって決められているが,もっと客観的に定義するべきである.PSLnor.bg は,Fig.4に示したように正規分布する.したがって,この値を使えばLSCと同じように検出限界をBG値のSDから論ずることができる.著者は,RLGとLSCの感度を比較するために低レベル領域の検量線を検討した.実験結果をFig. 6に示した.検出限界をBG値の 3 SD を超える net PSL 値(RLG),またはcpm(LSC)を与える放射能と定義したときの検出限界を記入した.これは検出限界としてはやや厳しい基準である.

Fig. 6 Comparison of the calibration curves for low C-14

 

 RLG 測定シートは,放射能溶液を縦横10 mm 間隔でプラスチック板にスポットし,乾燥することにより作成した(Fs.ab=1.00).この測定シートを露光容器の中央部に置き,ルミラー膜(Fab=0.85)で覆い,5 枚の IP を重ねて露光した.測定シートに接している IP をIPme,他を IPbg とし,各スポットの PSLbgは重ね合わせ法で評価した.ROI 面積は 25 mm2.測定シート内での BAS 感度の変動は無視できると考えられるので校正しなかった.
 LSC 測定試料は放射能溶液 5μl,Ultima gold-LLT 18 ml,尿2 ml を 20 ml ポリエチレンバイアルにとることにより調製した.これらの測定試料をアロカ社の普通のLSC(LSC-6101)及びlow BG LSC(LSC-LB 5)で測定した.後者は,環境中の H-3,C-14 測定用に開発されたもので試料容量は 100 ml であるが,アタッチメントをつけて測定した.
 RLG における露光時間と測定精度は A と B を,遮蔽厚みと測定精度は Bと C を比較することにより明らかになる.PSLbgは重ね合わせ法で評価しているので検量線はいずれも原点を通る直線になっている.C の条件における測定精度は,low BG LSCによる100 分計数のときのそれよりも優れていることを強調しておく.なお,露光条件C における100 mm2 当たりの検出限界は13 mBq C-14 である(Fig.4 B 参照).
 LSCにおける計数時間と測定精度は D と E を,低バック化の効果は E と F を比較することにより明らかになる.なお,low BG LSCで1 分及び10 分計数したときの検出限界はそれぞれ 69 mBqと 43 mBq であった.おおざっぱにいうと low BG LSCでは普通の LSC の 1/10 の計数時間で同じ精度が得られるということである.
 LSC,RLG の検出限界はいずれも BG 値及び計数(露光)時間の1/2乗に比例して改善されている.このことは,放射能測定法として両者には本質的な差がないことを意味している.RLG は露光時間の延伸と遮蔽の強化によって,low BG LSC は検出部分の改良によって検出限界を更に向上させうる余地がある.
 Fig.6 の横軸の目盛りに注目されたい.従来のトレーサー実験では,測定試料の放射能は普通1 Bq 以上になるように計画されている.RLG や low BG LSC は Bq 以下のトレーサー実験(sub Becquerel tracer technique)を実現させる測定法である.RLG には,一度に多数の測定試料を処理できる,経費が安い,非破壊測定であるなどの利点と low BG LSC に比べてサンプルサイズが1桁小さい,自己吸収の影響を強く受けるなどの弱点がある.low BG LSC にはこれと裏腹な利点,弱点がある.結局,どちらを選択するかは,測定試料の種類,測定試料数,研究目的などによって総合的に決めることになる.

 

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