6.5 定量WBAに関するQ and A
Q 6.1 β線ラジオグラフィーを選択した理由は?
Q 6.2 Pm-147を選択した理由は?
Q 6.3 点状または線状線源によるラジオグラフィーは考えられないか?
Q 6.4 WBA切片に存在するC-14標識薬物由来のβ線は妨害にならないか?
Q 6.5 平面線源についての注意事項を聞きたい.
Q 6.6 ティシュペーパーのスペックを明確にして頂きたい?
Q 6.7 検量線及び自己吸収補正曲線作成用試料についての注意事項は?
Q 6.8 C-14平面線源を使ってコールドWBA切片臓器の厚みが測定できないか?
Q 6.9 ラジオグラフィーにおける注意点は?
Q 6.10 WBA切片作成時にひびわれが生じることがある.ひび割れは測定値にいかなる影響を及ぼすか?
Q 6.11 定量WBAにおいて自己吸収はどの程度の誤差を与えるか?
Q 6.1 β線ラジオグラフィーを選択した理由は?
A 6.1 γ線やX線は透過力が強すぎて0-3 mg/cm2 を測定することができない.また,これらの放射線の吸収係数には物質依存性があるので,厚みをmg/cm2を求めることができない.
Q 6.2 Pm-147を選択した理由は?
A 6.2 厚み測定に用いられているβ線源核種としてはC-14(0.156 MeV),Kr-85(0.687 MeV),Sr-90−Y-90(0.546
MeV,2.282 MeV),Pm-147(0.224 MeV, 2.623 y)及びTl-204(0.764
MeV)などがある.これらの核種のうち,C-14ではエネルギー不足であるばかりでなく,C-14標識薬物由来のβ線と線源由来のβ線を区別できない.Kr-85は希ガスであるので線源にできない.
Sr-90−Y-90及びTl-204はエネルギーが高すぎて0-3 mg/cm2の厚み測定には不向きである.
Q 6.3 点状または線状線源によるラジオグラフィーは考えられないか?
A 6.3 ラジオグラフィーでは均一放射線密度で試料を照射できることが必須である.
Pm-147β線の飛程を考えると点線源によるラジオグラフィーは実現不可能である.
線状Pm-147線源をつくり,TLCスキャナー類似の方法でスキャンする方法も試みたが,厚み画像の分解能が悪いばかりでなくスキャン速度にムラ(ギヤを用いる方式では避けられない)が出るので良質な厚み画像は得られなかった.
そこで,IPサイズのPm-147平面線源を作り,この線源でラジオグラフィーを行うことにした.この平面線源の表面β粒子密度は極めて高いので30分の露光で良質な厚み画像が得られた.
Q 6.4 WBA切片に存在するC-14標識薬物由来のβ線は妨害にならないか?
A 6.4 次の2つの理由から問題にならない.WBA切片は裏返して露光されるので(Fig. 2参照),C-14β線のほとんどすべては粘着テープ及びIPの保護膜に吸収されてしまう.更に,Pm-147平面線源のβ粒子表面密度が,臓器のC-14のそれに比べて桁違いに高い.WBAにおける露光は普通1日またはそれ以上,厚み測定の露光は30分である.これら2つの理由から,WBA切片に存在するC-14は全く障害にならない.
Q 6.5 平面線源についての注意事項を聞きたい.
A 6.5 C-14平面線源 半減期が長いから長く使えると思うのは危険である.Pm-147平面線源の使用経験から線源の放射線損傷も懸念される.また,何らかの事故で破損した場合,処理に困る.線源として協会に引き取ってもらうことになるが,その経費が高額である.誤解されていることであるが,BASの感度均一性試験やその校正にユーザーが必要なのは平面線源そのものではなく,これに露光した
IPであることを認識しておるべきである.わが国の非営利団体で1枚C-14平面線源を確保し,C-14平面線源照射IP(これは感光したX線フィルムと同類で放射能でない)を宅急便で送るようなシステムを考えれば誰でもBASの感度校正サービスを受けられる.宅急便による輸送はβ線照射IPになんの障害も与えないことはPm-147照射IPの輸送で経験済みである.
Pm-147は核分裂で大量に出る,捨て場のない放射性同位体で,厚み計として細々と使われている.半減期が短いので,破損しても,decay
outを待って廃棄できる.
Q 6.6 ティッシュペーパーのスペックを明確にして頂きたい?
A 6.6 ティッシュペーパーでは心もとないと言う気持ちは分かる.厚み1.0-1.5 mg/cm2で,10μlの液体をスポットした場合,直径5-10
mmに広がる,きめの細かいティッシュペーパーなら何でも良い.厚みは,数cm四角を精確に切り取ってミクロ天秤で量れば求められる.
Q 6.7 検量線及び自己吸収補正曲線作成用試料についての注意事項は?
A 6.7 検量線及び自己吸収補正曲線の作成には,乾燥した場合試料自身に起因する自己吸収が無視できる,高比放射能C-14溶液を用いなければならない.比放射能が低いと試料溶液の広がりによって,自己吸収の度合いが異なってくるからである.
Q 6.8 C-14平面線源を使ってコールドWBA切片臓器の厚みが測定できないか?
A 6.8 C-14平面線源の表面β粒子密度が分からないので答えられない.IP表面に入射するβ粒子の統計変動を考えると,露光時間内に10000β粒子/mm2くらい入射させたい.入射粒子数が少ないと,統計変動のために画像がモザイク状になる.
C-14平面線源にはいろいろあるようである.感度均一性試験に使われていたC-14平面線源の単位時間当たりのPSL/mm2は,筆者が作成したPm-147平面線源のそれの1/15であった.
Pm-147平面線源では30分の露光で厚み画像が得られた.C-14β線のエネルギーは小さいので,保護膜のないIPを使い,数時間露光すれば画像が得られるのではと考えている.
普通のWBAでは,切片そのもののC-14が問題になり,厚み画像をとるために切片を裏返しにし,露光時間を制限しなければならなかったが,コールド切片に対しては露光時間を更に延ばしても問題にならない.
感度均一性試験では200×400mmの平面線源が必要であったが,この場合には100×200mmの平面線源を作れば目的を達成できる.
Q 6.9 ラジオグラフィーにおける注意点は?
A 6.9 平面線源,WBA切片及びIPの密着を良くすることである.密着が悪いと画像が不鮮明になる.これら3者を重ね,WBA切片を完全にカバーするサイズでそりのないプラスチック板を“重し”として載せ,黒布で覆って露光するすると良い.
Q 6.10 WBA切片作成時にひびわれが生じることがある.ひび割れは測定値にいかなる影響を及ぼすか?
A 6.10 ひび割れが起ると,切片臓器は部分的に厚くなり,自己吸収のためにPSL値は低くなる.例えば,2.0 mg/cm2 の臓器に,10
%, 20 %, 30 %のひび割れが起ると,その切片臓器の厚みは2.2 mg/cm2, 2.5 mg/cm2, 2.9 mg/cm2(Fig.
5参照)になり,それらに相当する自己吸収を受けることになる.10 %ぐらいまでなら見逃せるが,それ以上は問題である.
Q 6.11 定量WBAにおいて自己吸収はどの程度の誤差を与えるか?
A 6.11 切片厚み(m)によって異なる.例えば,Fig.
5にプロットした60μm切片について言うと,臓器組織の補正係数は0.85から0.60の間に入る値である.この場合,厚み測定における0.1mg/cm2の誤差が補正係数に大約0.01の誤差を与える.今や,液シンは完全なブラックボックス化しているので,この装置におけるクエンチング補正係数を知っている研究者は少ないと思われるが,この補正係数の値が大体このレンジである.すなわち,WBAで自己吸収を補正しないと,液シンでクエンチングを補正しないときに予想されるのと同じ程度の誤差を生じているということである.
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