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11. 簡易定量全身オートラジオグラフィーの提案

11.1 基礎的事項

 薬物の体内分布の試験には,約半世紀に渡って臓器摘出-液シンによる計数とWBAが用いられてきた.ここでは,WBAはRLGで行われていることを前提にして論を進める.前者で得られるのは単位重量当たりの放射能(Bq)であり,後者で得られるのは露出時間内にIPの感光層に入射したβ線のエネルギーに比例するPSLである.BqとPSLは次元の異なるものであるから,これら2つの方法によって得られる結果を直接比較することはできない.
 普通,厚みは長さ(m)で表示されるが,β線の吸収が関与する現象を論ずる時には,厚みは単位面積当たりの質量(mg/cm2)で表示するのが好都合である.これは,β線の吸収係数は,後者の表示法によれば物質の種類にほとんど依存しないからである.ここでは,長さ表示の厚みは特に厚み(m)とする.
 臓器計数法とWBAを関係づけるためにはWBA切片における各臓器の厚みを知り,各臓器の自己吸収率を補正しなければならない.
 まず,問題点をクローズアップするために,コールドWBA切片の厚み画像(Fig.1),C-14の自己吸収曲線(Fig. 2)及びラット各臓器のmg/cm2/mm値(Table 1)を示そう.
 Fig. 1は60μmで作成したラットコールドWBA切片の厚み画象である.左上の矩形画像は厚みを検量するために置いた,アルミ箔(1〜4枚)の画像である.β線の吸収曲線において,β線強度は厚みに対してほぼ指数関数的に減弱していくが,両者は全厚み範囲に渡っては完全な直線関係にならない. 5. Fig. 1 Absorption curves of Pm-147 and C-14 by GM counter しかしながら,数mg/cm2という,狭い範囲ではβ線強度の対数(log PSL)と厚みの間には優れた直線関係が成立している. 5. Fig. 4 Relationship between log PSL and Al thickness したがって,各臓器のPSL値からその臓器の厚みを精確に求めることができる.

Figure 3

Fig. 1 Density radiogram of lyophilized rat 60μm section

 Fig.2はC-14β線の自己吸収曲線である.参考までに,本図には60μmで作成したラット各臓器の自己吸収率がプロットされている. 臓器の中で,最も薄いのは水晶体で自己吸収率の算出が困難であったのでここにはプロットされていない.消化管内容物の厚みはさまざまである.これは,消化管を移動する間に脱水が進み,厚みが次第に大きくなるためと考えている.WBA切片における各臓器の自己吸収の影響は,液シンにおけるクエンチング並みであることを認識しなければならない.

Fifure 5


Fig. 2 Correction curve for self absorption of C-14

 根本ライフサイエンス研究所と興和において,それぞれのSOPに従って作成したラットコールドWBA切片のmg/cm2/mm値をTable 1に表示した.興和のデータは若干厚い.この傾向は,mg/cm2/mm値の大きな臓器に特に顕著であることが分かる.これは,根本ライフサイエンス研究所では2昼夜,興和では1昼夜凍結乾燥していることと関係があると思われる.

Table 1 Density (mg/cm2/mm) of lyophilized rat tissues

  Nemoto* Kowa**
Testis 12.7±2.50 12.7±0.67
Brain 18.5±3.42 22.2±1.17
Lung 18.8±1.41 22.2±0.50
Thymus 20.8±0.85 23.3±1.67
Heart 21.3±0.54  
Kidney cortex 24.0±2.60  
Muscle 22.0±3.56  
Adrenal 27.0±2.58  
Liver 29.6±2.21 32.3±0.50

* Calculated from three 60 μm sections + one 90 μm section.
** Five measurements of one 60 μm section.


   
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