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2. 基礎講座

2.1 薬物動態研究に用いられている同位体

 薬物動態研究には,当然のことながら有機化合物を構成する元素の放射性同位体 radio isotope, RI 及び安定同位体 stable isotope が使われている.同位体と言う用語は,安定同位体で標識した標識原子数の異なる分子種に対しても拡大してしばしば用いられる.例えば,“使用したd5体の同位体濃度は”と言う場合である.安定同位体を SI と略称していたが,SI はSI 単位系としてより一般的に使われているので,この略号は避けた方が良い.RI は refractive index の略語としても用いられているので海外の発表では気をつける.
 薬物動態研究に用いられているRI及び安定同位体を表示する.

薬物動態研究に用いられている放射性同位体
RI 半減期 最大エネルギー(MeV) 主な生成反応
H-3 12.33 y 0.0186 Li-6(n,α)H-3
C-14 5730 y 0.156 N-14(n,p)C-14
P-32 14.26 d 1.711 S-32(n,p)P-32
P-33 25.34 d 0.249 S-33(n,p)P-33
S-35 87.51 d 0.167 Cl-35(n,p)S-35

薬物動態研究に用いられている安定同位体
安定同位体 存在比(%)
H-2 0.015
C-13 1.10
N-15 0.366
O-18 0.200

 N-14(n,p)C-14は,N-14原子核に中性子が入り、陽子が放出されてC-14原子核が生成したこと示している.
 β壊変では最大エネルギー以下ゼロまでのエネルギーを持つβ粒子が放出される.β粒子の流れをβ線という.すなわち,β線は連続スペクトルである.通常,最大エネルギーをもってそのβ線のエネルギーとしている.
 H-3 エネルギーが極端に低く,比放射能が高い標識体が得られるので電子顕微鏡オートラジオグラフィー用核種として最適.液シン以外では定量測定不能.同位体効果と標識の安定性に問題がある.
 C-14 最も理想的な RI.マクロオートラジオグラフィーには最適なエネルギー.比放射能を上げられないのが難点.
 P-32 とP-33 P-32β線のエネルギーは高く,制動放射線が放射されるので要遮蔽.マクロオートラジオグラフィーでは解像度が悪い.24時間以上にわたる連続測定では減衰に対する補正が必要.P-33 は手ごろなエネルギーのβ粒子を放射し,半減期も長いので,使いやすい核種である.最近,市販標識体の種類も豊富になってきた.
 C-13は,存在比の変動の著しい同位体で,有効数字は小数点以下2桁までとすることになっている.

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