GM 計数装置
昭和30年代前半までは,C-14は湿式酸化して炭酸バリウムの形にして端窓型 GM 計数装置で測定されていた.わが国では昭和38年ごろからC-14はもっぱら液シンで測定されるようになった.
ガスフロー計数装置
測定試料を計数管の中に入れ,増幅ガスを流しながら計数する装置.TLCスキャナーやラジオ GC の検出器としても使われている.
液体シンチレーション計数装置(液シン,LSC)
現在,軟β放射体はほとんど全て液シンで測定されている.液シンでは,測定試料を液体シンチレーターに溶かして測定するので,測定におけるβ線の吸収や自己吸収の問題は存在しないが,化学物質(酸素,塩素化合物など,化学クエンチング)や着色物質(カラークエンチング)によって発光効率が低下し,その結果計数効率が低下する現象,クエンチングがある.現在では自動的にクエンチングを補正して
dpm 値が印字されるようになっているのでこの現象に気付く機会が少なくなったが,クエンチングはなるべく避けることが賢明である.今日,液シンはあまりにも一般化したためにその原理を理解せず,間違った扱いをしているケースも考えられるので基本的なことを含めて
Q and A で解説する.
ラジオルミノグラフィー(RLG)
RLG は放射能の 2 次元分布画像の解析手段として 1990 年ごろに開発された新しい方法である.RLG には,液シンの計数操作に相当する露光の時間を延伸することによって統計変動を小さくできるという優れた側面がある.RLG
は薬物動態研究の分野でも大きな期待をもって迎えられたが,最近,本法に対する情熱が冷めてきたように思われる.その原因は,感度の面均一性を試験し,必要ならば校正する,PSL
値を放射能の SI 単位である Bq に変換する,ユーザー側でバリデートするなど最も基本的なことが等閑にされたままであることにある.著者は,RLG
を放射能の定量測定法として体系化し,液シンに代る新しい放射能測定法としてマイクロプレート RLG を提案した.
ラジオクロマトグラフィー
薄層クロマトグラフィー(TLC),ガスクロマトグラフィー(GC),液体クロマトグラフィー(HPLC)それぞれに対応した放射能検出法がとられている.
ラジオ TLC まず,TLC プレート上を,狭い(例えば、3 mm)窓を持つ気相計数管でスキャンする薄層クロマトスキャナーが開発され,長い間使われていた.次に,大型の位置有感式比例計数管
position sensitive proportional counterが開発された.この装置では,ワイヤー状の陽極の両端に前置増幅器が配置され,放射線の電離作用により発生した電流が両端の前置増幅器に到達する時間差を読み取ることにより壊変が起こった位置が判定される機構になっている.この装置の特徴は走査型に比べて測定時間を著しく長くできることである.更に,複数個の位置有感式比例計数管を並列した装置で二次元展開した
TLC の画像解析する装置も考案されている.また,イメージングプレートに露光し,バイオイメージアナライザーで解析する方法(RLG)も採用されている.ラジオ
TLC は,分離能が悪いなどの理由で代謝分析にはあまり利用されていないが,操作が容易なことから標識化合物の放射化学的純度の検定に用いられている.
ラジオ GC GC は,分離能は高いが,適用可能な化学形に誘導しなければならないので敬遠され,最近では HPLC が好んで用いられるようになった.このような事情からラジオ
GC は最近あまり使われなくなった.ラジオ GC では,カラム溶離物を酸化還元管によって二酸化炭素,水素に転換し,計数ガスと混ぜて気相計数管で計数する機構になっている.
ラジオ HPLC ラジオ HPLC は,4.
マイクロプレート RLG とそのラジオ HPLC への応用の項で解説した.また,分離能を活かしたまま検出感度を向上させることができる同期加算型検出器による測定の一例を7.10 TBq/mmol
の H-3 ペプチドの合成とペプチドの代謝研究で紹介する.
等閑にされている計数の統計処理
放射性壊変は統計変動を伴う現象である.したがって,計数率は統計変動をつけて提示するべきである.統計変動をつけるとかえって煩雑になるようなら,統計変動の大きさが第三者に伝わるように放射能測定の項を書いておくべきである.ある測定試料を
t時間測定したときの総計数を N, tb 時間測定したときのBG計数を Nbとすると,この測定試料の総計数及び計数率は次式で与えられる.この式は,計数率は同じでもその標準偏差は測定時間及び
BG の大きさによって大きく異なることを教えている.
総計数 = N ± N1/2
計数率 = (N/t - Nb/tb) ± (N/t2 + Nb/tb2)1/2
放射能の測定において, この式は最も重要な式であるが,具体的なことは案外理解されていないので,実例を挙げる.計数率 10.0 cpm(無限大時間測定して求めた値)を普通の液シン(BG:30.0
cpm)と低バック液シン(BG:3.0 cpm) で測定した場合の計数率(cpm)を表示する.同じ計数率でも,計数時間を延伸することによって,または
BG を下げることによって計数率の精度は良くなることを示している.
Counting time,BG counts and standard
deviation*
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Counting time |
1 min |
5 min |
10 min |
Conv. LSC(BG:30.0 cpm) |
10.0±8.37 |
10.0±3.74 |
10.0±2.65 |
Low BG LSC(BG:3.0 cpm) |
10.0±4.00 |
10.0±1.79 |
10.0±1.34 |
*: Net cpm of sample: 10.0
安定同位体の測定
最も普遍的な測定法は質量分析法(MS)で,普通,分離手段であるGCまたはHPLCと連結して用いられている.
安定同位体標識体の検索にはマスクロマトグラフ法が用いられている.その骨子は,カラム溶離物の MS を数秒間隔でとり,逐次電算機に記憶させる.分離分析終了後,電算機から特定
m/z 値のイオンの溶離状態を画かせることにある.これをマスクロマトグラムmass chromatogram(MC)という.m/z 値を選択することによって非標識体及びそれに対応する標識体の溶離状態を容易に知ることができる.
安定同位体標識体の定量には特定質量数のイオンだけを検出する特定イオン検出法selected ion monitoring(SIM)が用いられている.この方法は,質量分析計の加速電圧を変換することにより行うことからaccelerating
voltage alternator(AVA),同時に複数のイオンを検出することから多重イオン検出 multiple ion detecting
(MID) とも呼ばれていた.
核磁気共鳴法(NMR)は C-13 標識体の定量に利用できる可能性があるほか,H-2 (H-1 信号の消失から)や C-13 標識位置の確認に常用されている.また,赤外吸収スペクトル(IR)はC-13
呼気分析に使われるほか,重水素標識位置の確認に手軽に使用できる.薬物代謝研究の分野では使用頻度は低いが,N-15 は励起スペクトルでも測定できる.
以上述べたように,安定同位体標識体の測定には各種の分離分析手法と,MS を初め各種の分光学的手法とが組合わされた形で使われているので両者について基礎的知識を日頃涵養しておくことが大切である.
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