2. 基礎講座 |
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2.3 標識化合物 |
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標識化合物の表示 RI標識体には,標識位置と標識RI,比放射能及び放射化学的純度を記載することになっている.RI がある範囲あるいは分子全体にわたって均一に分布している標識体は uniformly labeled と呼ばれ, U と略記される.例えば,[C-14]二酸化炭素中で光合成された glucose は [U C-14] glucose と記載される.また,標識の分布が不均一の場合には generally labeled と呼ばれ,G と略記される.安定同位体標識体には,標識位置,標識原子数,同位体存在比を記載することになっている. 標識体の合成 トレーサー法によって得られる果実の大きさは,使用した標識体の良否(核種,標識位置,比放射能,放射化学的純度,同位体濃度など)によって決まるといっても過言ではない.薬物動態研究にトレーサー法が導入された頃は,市販の標識体も少なく研究者自ら合成しなければならなかった.標識体合成に関する専門書 [A.Murray,D.L.Williams: Organic Syntheses with Isotopes,Intersciences Publishers,(1958), J.R.Catch著,長谷川賢訳,C-14 化合物,化学同人,(1963)など]も刊行された.その後,市販標識体の種類が急速に豊富になった.標識体が commercially availableであるということは,多くの研究者がその標識体をトレーサーとしてすでに使用していることである.先駆的な研究をするには,その研究課題の解決を可能にする標識体を自ら合成するファイトが必要である. 標識体の合成には原子核反応による方法,交換反応による方法,生合成法,化学合成法などがある.現在,市販されている標識化合物の大部分は化学合成法によって,また,合成が困難なアミノ酸や糖類は生合成によって得られたものである.標識化合物の化学合成法は,代謝的に最も安定な位置を標識しなければならないこと,放射化学的収率を上げるためにcommercially available な標識化合物を有効に利用できるルートを選択しなければならない点が普通の合成法とは異なっている.標識体の化学合成では有機合成化学はもとより代謝及び各種の分光学に関する知識も必要であり,場合によっては合成化学専門家の協力を仰がなければならない. 交換反応による方法 無担体三重水素気中に有機化合物を封入し,数日間放置した後取り出すと H-3 でG 標識された有機化合物が得られる.この標識法は Wilzbach 法と呼ばれ,初期には盛んに利用されたが,G標識体しか得られないことと標識の安定性に問題があることなどから,現在ではほとんど顧みられなくなった.1980年代になると,NMR で重水素標識位置が容易に確認でき,MS で同位体濃度も精確に求められるようになった.水素-重水素交換反応に対する反応性には明確な差がある.この差を利用して代謝研究に使用できる重水素多重標識体が合成できることが明らかになってきた.実例を7.3 Rutin 代謝物の検索,7.7 Imipramine(IP)のdesipramine(DMI)の代謝率の測定で紹介する. 多重標識 multi labeling 安定同位体標識では,複数個の安定同位体を同一の分子内に導入することをいう.質量スペクトルでは,同位体ピークが一種のバックグラウンドになる.同位体ピークの強度は,主ピークに対して+2,+3にゆくにつれて指数関数的に小さくなる.このバックグラウンドを避けるために3個以上の安定同位体で標識するのが普通である.都合の良いことに薬物分子の多くはメチル基やフェニル基を持っているので,これらをまとめて重水素標識する方法がとられている. RI 標識では,複数個のRIを同一の分子内に導入することのほかに,エネルギーの異なる2種類の RIで標識する意味に使うこともある.組合わせとして,H-3 とC-14(またはS-35),C-14 とP-32 などがある.この場合には,2つの標識体を別々に合成し,混合することにより調製するのが普通である. |
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