RLGlogo2

7. 研究例

7.3 Rutin 代謝物の検索

 化学構造から分かるように rutin を正攻法で H-2 または C-13 で標識することは不可能である.そこで着目したのが,軽水素-重水素交換反応に対する反応性の違いである.まず濃重水素塩酸で rutin を加熱処理して全芳香核水素原子を重水素置換した後,室温で塩酸処理して反応性に富むベンゼン核 A の重水素を軽水素に再交換することにより重水素標識体(rutin-d)を合成した.この重水素標識体における d1:d2:d3 体の比は 1:6:3 であったので重水素標識体の検索は d2 体を指標にした.
 rutin-d をラットに経口投与し,24時間尿を TMS 誘導体にし,GC-MS 分析した.Fig.1 A, B は,rutin-d 投与前後のマスクロマトグラム(MC)である.MCピーク a〜e がrutin 由来の代謝物に相当することは,rutin-d を投与したときに + 2 のm/z値で作製したMCにピークが現われることにより証明された.各ピークの保持時間と MSの解析から代謝物を同定した.同じ実験をヒトについて行なった結果,M-c の代わりにβ-m-hydroxyphenylhydracrylic acid が同定された.このようなアプローチは生体成分や食物成分の研究にも適用できると思われる.興味深いことは,嫌気的な条件下で生成したと考えられる代謝物 a,b,c 等が同定されたことである.Fig.1 C は,抗生物質ネオマイシン処理したラットに rutin-d の投与実験をして得られた MCである.+ 2のm/z値で作製したMCにピークが消えている.2 週間後 に rutin-d を投与すると,この代謝物が再び生成することが明らかにされた.これらの実験結果は,rutin の代謝には腸内細菌が係わっていることを示唆している.
 この研究は,交換反応でも有用な標識体が得られることを示す好例である.同様なアプローチは他の食品成分や生体成分に対しても適用できると考えている.
S. Baba, T. Furuta, M. Fujioka, T. Goromaru: J. Pharm. Sci.,72,1155(1983).
章の目次へ 次へ
Home 略字表