7. 研究例 |
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7.6 同時投与法による17α-methyltestosterone(MT)錠剤の生体利用率の測定 |
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MT はTSのメチルエーテルで,アメリカでは錠剤として用いられている.FDAは,生体利用率を検討しなければならない薬剤110種をリストアップした.その中に
MT錠剤が含まれていた.我々がTS-d3を合成し,これを使ってTSの動態を研究していることを知ったFDAは MT 錠の生体利用率を解明する共同研究を提案した. 10 mg MT 錠剤 + 10 mg MT-d3水溶液,1週間後に 10 mg MT水溶液 + 10 mg MT-d3水溶液を8人の成人男子に投与した.投与直前及び所定の時間後(Fig. 1参照)に血液 17 ml を採取した.血清を集め,分析まで -20℃ で保管した.この血清1 ml に 50 ng のMT-d6 を内標として加え,n-hexane で抽出した.抽出液を GC-MS-SIM に注入し,m/z 302 (MT), 305 (MT-d3), 308 (MT-d6) のピーク高からMT, MT-d3 の量を求めた.MT の血清濃度の経時変化を Fig. 1 に示した. 10 mg MT 錠剤 + 10 mg MT-d3水溶液を投与した場合の MT のAUC から同時投与法における MT錠剤の生体利用率(relative extent of absorption, Frel)を算出した.また,2回の投与実験のデータから従来のクロスオーバー法におけるMT錠剤の Frelを求めた.同時投与法で求められた AUC, MRT (mean residence time), MDT (mean in vivo dissolution time), Frel を Table 1 に,第1週と第2週におけるMT-d3 のAUC と MRT の比を Table 2 にまとめた.同時投与法及びクロスオーバー法で求めた MT 錠のFrel はそれぞれ 100.9±18.3 %,97.2±37.0 % であった. 両法で求めたFrel はほぼ同じでありながら,SDが大きく(約 20 %)異なるのは同時投与法の精度の高さによるものである.クロスオーバー法の前提になっている投与時の clearanceは同じであるという前提そのものが不確かであることを示唆している.Table 2 に示すように,両投与時の AUC やMRTには大きな開きがあることがこの結論を支持している.両法の結果を統計的に検討した結果,Frelで 20 % の差(α=0.05, 1 - β=0.8)を検出するために必要な被験者の数は,クロスオーバー法では 40 人であるのに対して,同時投与法では12人で足りることが明らかにされた. Y.Shinohara, S. Baba, Y. Kasuya, G. Knapp, F. R. Pelsor: J. Pharm. Sci., 75, 161(1988). |
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