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12. 低バック液体シンチレーションカウンタのマイクロドージングへの応用

5. マイクロドージングを始めるに当たって

MDに伴う放射線障害は杞憂,それよりこわいcross contamination.
唯一の被爆国である,わが国は放射能に異常に過敏になっており,薬物動態研究者自身が放射能を敬遠してきた後ろめたさがある.MDで服用する14C標識体による放射線被爆を問題にすることがいかに非科学的であるかを研究者自身が納得し,“隗より始める”ことがMDの第一歩である.
半世紀も昔の話であるが,筆者が留学していた研究所では,“10μCi 14C標識体服用,24時間尿提供,謝礼$10”の学生アルバイト募集の掲示をよく見かけた.生物学的半減期12時間の14C 標識薬物1μCi の服用に伴う内部被爆は約 8μSvと推定される.高度12000mを飛行するジェット機に乗っていると4μSv/hr被爆する(国際航空路線の乗務員組合の調査),体重 60 kgのヒトには 49 nCi ,一日に摂取する食物には 1.1 nCi の 14C が含まれている(10).もっと意外なことは,β線波高スペクトルで明らかにしたように,ヒト尿には14Cの約30倍(被爆線量では約300倍)も多くの40Kが含まれており, LSCで測って毎日約6000 cpmもの40Kが排泄されている事実である.1μCi の14C の服用に伴う放射線障害は全くの杞憂に過ぎない.
より恐いのはcross contaminationである.これには細心の注意を払わなければならない.Fig. 9が示すように,動物実験では変動範囲内と処理されてきた1cpmの差は,Low BG LSCによる100分間計数では意義付けしなければならない計数である.このために,MDの被験者はある期間RI施設から隔離されていること,測容器具類は全てbrand newものを使うことなどの神経質さが要求される.筆者自身,手もとにあったメスピペットを検量線作成に使用し,一連の実験が無駄になったという苦い経験がある.

投与量と試験項目
85μCiの14C標識薬物(20mg)をヒトに投与してAMSとLSCで吸排を調べ,両者の性能を比較した報告(11)があるが,この投与量は,汎用型LSCで10分間計数すれば目的を達する量である.筆者はいろいろな観点から,MDでは“1μCi/man”を最も合理的な投与量と考えている.
Low BG LSC自身炭素年代測定用に開発された装置である(9).実際,Low BG LSCは大量の有機物が含まれている試料の年代測定にはAMSより適しているといわれており,例えばガソリン中のバイオ燃料の含量の測定に実用化されている.ベンゼンに変換して測る方法を採れば数Bq投与でマスバランスが作成できるはずであるが,大騒ぎしてただマスバランス試験だけとはまさに“大山鳴動鼠一匹”の話である.MD試験をするからには,投与薬物の血中濃度の推移,尿便中への排泄速度,主要代謝物の定量なども含め,できるだけ多くの情報を集めたくなるのが自然の成り行きであろう.1μCi/manの投与量でマスバランスの作成は言うに及ばず,血中,排泄物中の主要代謝産物を定量できると考えている.先述したように,欧米では古くから10μCi/manの投与量で実施されてきた.放射能の測定精度は計数時間の1/2乗に比例し,BGの1/2乗に反比例して向上する.Low BG LSCを使い,試料量(例えば,尿なら5 mL)を多くし,100分間計数すれば,欧米で実施されている以上の精度が期待できると考えている.

将来の展望.
尿試料の精度の向上 入手しやすいと理由で,とりあえず尿を試料として基礎検討してきた.尿は試料サイズを大きくできるという点では扱いやすい試料であるが,大量の40Kを含んでいることがBGレベルの14Cの定量の隘路になっている.高波高側に設定したウインドウの計数から14Cの最適ウインドウに流れ込んでいる40Kのパルスを補正することによって精度はさらに向上できると期待している.
プラズマ 一回の採血量を何mLまで容認されるか?標準サイズバイアルで何mLまで無理なく計数できるかなどの問題が残っているが,40Kの影響を考えなくても良いので,標準サイズのバイアルでも十分な感度が得られると期待し,現在研究中で,近い将来には研究成果を公表できる.
糞便 実験者に精神的負担をできるだけかけない試料調製法の開発が課題である.この場合,採便,均質化をブラックボックス内で行い,その一部を秤取して乾燥し,オキシダイザーで燃焼して試料調製する方法が最も手堅い方法ではないかと考えている.

代謝産物の定量 どうしても各代謝産物をHPLCで分離する過程が必要である.この場合,on-line計数法では,HPLCの分離能を維持したまま高感度検出することは理論的に成立しないので,MDで扱う試料ではon-line計数法は始めから諦めた方が賢明である.off-line計数には,マイクロプレートのウエルに分取してラジオルミノグラフィー(4. マイクロプレートラジオルミノグラフィーとその Radio HPLC への応用)を実施する方法が有力な選択肢の1つである.現在のマイクロプレートのウエルの幾何学的効率は約0.13,分取できる最大容量は0.4mLである.幾何学的効率の更に高いマイクロプレートに分取し,乾燥し,イメージングプレートに低温で乾燥した状態で(すなわち,結露を防ぎながら)長時間露出し,ラジオルミノグラフィーを行う方法がもう1つの選択肢である.溶離液をバイアルに直接,全量採ってLow BG LSCで計数する方法も考えられる.この場合には,先述したように内因性放射性核種(14Cと40K)が存在しないので極めて高い精度で計数できると期待している.しかし,計数試料の数が多くなるので,計数時間はある程度短く(10 min/ fraction)せざるを得ない.計数モードをpreset time とpreset countにし,低cpm試料は重点的に長時間計数するようにすることが賢明である.
逆同時計数法と同じ原理が RLG-マイクロプレート法によるoff-line countingに極めて有効に適用できる可能性があることを指摘しておく.その骨子は次の通りである.RLGにおける検出器,イメージングプレート(IP,普通 20×40 cm)は普通の放射線検出器と異なり,大きな広がりを持っているので,遮蔽むらによるBG値の位置依存性が問題である.いま,HPLCフラクションを集めたマイクロプレートに5枚のIPを重ねて露光して解析したとする.マイクロプレートに接する.IPをIP-ex.,他をIP-cal.とする.14Cβ線の最大飛程(約25 mg/cm2)は IP の厚さに比べて十分に小さいので,高エネルギー放射線は5枚のIPに共通に感応するが,14Cβ線はIP-exにのみ感応する.従って,IP-exの各ウエルのPSL値からIP-calの該当するウエルのPSL(平均値)を差し引いた値が当該ウエルの14C net PSL値である.この場合には,何のデバイスも付加することなく逆同時計数法と同じ効果があげられることは大変愉快なことである.

9. β放射性同位体定量測定法としてのラジオルミノグラフィーの再評価


   
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