試料の調製
測定試料の調製には凍結乾燥法と放置乾燥法がある.これら 2 つの方法の特徴を実例で説明する.Fig.1 A,B は,それぞれ C-14
ATP 溶液,C-14 EPA 溶液をいずれも 0.1 mlをウエルに取り,これに0.1w/v % agarose 0.1 ml を添加混合し,一夜凍結乾燥した試料のラジオルミノグラムである.Fig.1
C,D は,同じ C-14 ATP,C-14 EPA 溶液 0.1 ml + 水0.1 ml をウエルに取り,放置乾燥したのち一夜デシケータ中シリカゲル上で乾燥した試料のラジオルミノグラムである.放射能はいずれも
100 Bq である.
Fig. 1 Sample preparation and radioluminograms
まず,A,Bを比較する.B は Aに比べて PSLob が低いのみならず,PSLはウエル以外の部分にも認められる. また,PSLob
の再現性も A の方が優れている.C-14 ATP は不揮発性であり,凍結乾燥操作によっても揮散しない.それに対して,C-14 EPAは凍結乾燥操作で部分的に揮散し,放射能の損失(約
7 %)や,周辺ウエルの汚染を起こしていることが明らかにされた.C,D では PSLはウエルの直上部に局在しており,両者のPSLobは良く一致しており,その再現性も良好である.PSL
像はいわゆる“鞍部”様を呈しているが,これは試料のクリーピングに起因すると考えられる.PSL 像が “鞍部”様になったことは,測定試料を均一の厚みに調製するという初期の目的に反したが,放置乾燥でも充分な再現精度が得られることが分かった.なお,C
の PSLob は,A のそれとFg から予想された値より小さい.これは,試料が放置乾燥中にクリーピングしたため実際のFgが悪くなったためと説明される.
ここで,試料調製に当たって特に留意していなければならないことを挙げておく.検出効率に大きな影響を及ぼすのはFgとFs.abである.後者については既に述べた.測定試料はウエル底面に均一に広がっていることが望ましい.ウエル底面に広がらなかった測定試料と均一に広がった測定試料とではFgが微妙に異なってくるし,前者では局所的に自己吸収を強く受けた状態になっている恐れもある.このような理由からウエルの底面と側面は特殊な表面処理をすることによって水溶液が均一に濡れるようにしてある.測定試料の調製がうまくいっているか否かはPSL像から容易に知ることができる.
露光
計数管の遮蔽を強化すればBG 値は指数関数的に低下し,その SDも小さくなり,結果として検出限界も向上することは従来の放射能測定装置で経験していることである.RLGでもBG
値をできるだけ低くした方が良い.
本法では,乾燥処理したマイクロプレートをケースに納め,ケースごとシールドボックス内で立てかけて,または真鍮板と真鍮角棒で組み立てた露光容器内で横たえて露光する方法がとられている.3.3バックグラウンド値で詳述したように,BAS
の PSL 読取り感度や遮蔽強度には不均一性がある. IP 周辺部ではこれらの不均一性が著しい.これらの不均一性はPm-147平面線源によって校正できるが,校正しない場合にはIP
の中央部だけを使うようにするのが賢明である.より具体的に述べる.供給されているマイクロプレート2枚を1組みにすると,ウエルは103×155
mm の広がりである.これを IPの中央部に2組み配置した場合には縦横にそれぞれ42,47 mm の,また3組みを配置した場合には
22,27 mmのスペースができることになる.後者の場合には感度の均一性が若干問題になる領域を使っていることになる.1 組みのマイクロプレートには
96 個のウエルがある.実際には,BG 及び検量線作製用に数個のウエルが必要であるので, 1回の露光で実質約185分画(2組み)または280分画(3組み)の
HPLC溶離液を測定できることになる.
IP はマイクロプレートに密着露光させることがこつである.IPが反ったまま露光すると,Fgが異なってくるからである.この場合,重しとして硬貨などを置くと,その部分の遮蔽が強化され,結果として
BG 値の不均一化を増長させることになる.ガラスにはK-40(天然放射性同位体)が含まれているので使用しない方が良い.必要ならば,反りのない,IPサイズのプラスチックプレートを重しとする.
放射能の測定精度は測定時間の平方根に比例して向上する.LSCでは,与えられた時間内で処理しなければならない測定試料数の要求から計数時間は普通1試料当たり1-3
分である.計数時間を伸せば精度が向上することは分かっているが,同僚への迷惑を考慮して計数時間10分で我慢しているのが実情である.本法では露光時間を誰に気兼ねすることなく設定できる.RLG
における PSL 値は露光時間とともに大きくなるが,IP に記録された放射線エネルギーは fading(3.1 RLGの検出特性)によって失われていく.標準的な操作では
24-72 時間の露光が妥当であると考えている.
IP に記録された放射線エネルギーは散光によっても失われる.散光は,反射によって意外なところまで到達している恐れがある.したがって,露光から解析に至る全過程を通じて散光を完全にシャットアウトしなければならない.露光容器は黒布で覆っておく.
PSL 読取り
ウエルの直上部を完全にカバーして読取ることが必須である.読取りは,あらかじめ作成したテンプレートで行う.ウエルの面積は100 mm2
である.読み取り面積をこの面積一杯にすると,テンプレートのわずかなずれが大きな負の誤差を与えることになる.また,不必要に広い面積を読取ると
BG 値が大きくなる.普通,これらの事情を勘案して読取り面積は120-130 mm2 に設定している.
LSCとの比較
マイクロプレートのウエルに 0.01-100 Bq の C-14 EPA 水溶液 6 試料ずつ取り,試料の液量が 0.2 ml
になるように精製水を加えた後放置乾燥し,24時間露光してRLGを行った. また,バイアルに同量の試料を取り,LSCでそれぞれ
1,3,10 分測定した.放射能の検出限界には色々な定義があるが,バックグラウンド試料の 3 SD の計数を与える放射能をもって検出限界とすると,本法の検出限界は
50 mBq で,これはLSCの10 分測定と同レベルということになる.この実験の段階では RLG における感度の不均一性にまで気付いていなかった.C-14またはPm-147平面線源露光IPで感度校正してRLGを行う,PSLbgを校正する,IP
の中央部(感度均一性が高い)だけで使うなどの工夫をすれば,LSCで100分計数した精度が期待できると考える.このことは,20mm真鍮箱内で72時間露光した場合のPSLnor.bg/100mm2のSD(3. ラジオルミノグラフィーによる放射能の定量測定
3.3 バックグラウンド値)は,液シンで100分間計数した場合のそれに相当することからも裏づけられていることである.
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